本場ジョージアのクヴェヴリで醸された日本ワインの道しるべ、北海道からリリース。
ラピスラズリの色に染まった夜空の向こうに、天体望遠鏡を覗きながら「導きの星」である北極星(ステラマリス)を探している男。よく見ると、望遠鏡はワインのボトルになっている。
自然派ワイン好きの方には、すっかりお馴染みのミシェル・トルメーの機智とユーモアとにあふれたエチケット。今回、日本を代表する自然派ワインのインポーターであるラシーヌから販売された「キュヴェ・ステラマリス」には、たくさんの出逢いのドラマが秘められている。
カスピ海と黒海に挟まれた南コーカサスの地ジョージア(旧グルジア)は、ヨーロッパとアジアの交差点とも言える国だ。近年、ワイン誕生の地として、世界中から注目を集めている。
醸造の起源はBC6000年に遡り、世界最古のワイン醸造法として、2013年にはユネスコ世界無形文化遺産に登録された。その特徴は、クヴェヴリという素焼きの甕(かめ)を土の中に埋めて、固有のブドウ品種と野生酵母だけで発酵・熟成することにある。
しかし、すっかり有名になったクヴェヴリは、近年の世界的なアンフォラブームの中、少しずつ入手困難になっていた。そこで、ジョージア国内で上質なクヴェヴリがなくならない内に、ラシーヌではワインと一緒に輸入。信頼できる造り手に託すことを考えた。
10R(トアール)ワイナリーのブルース・ガットラブだ。
バークレーで醸造学を修め、カリフォルニアで醸造コンサルタントをしていたブルース・ガットラヴは、1989 年、ココファーム・ワイナリーの醸造指導のため来日。
醸造責任者としてワインの品質向上を実現してきたが、量より質を追求したいという強い思いから、自身の畑と醸造所を構えるため家族とともに北海道・岩見沢に移住。2009 年、10R ワイナリーを設立する。以来、常にワインを志す者にとって彼は「導きの星=北極星」であり、日本ワインの多くの作り手たちの道しるべだった。
特別なキュヴェのためにブルースが選んだ葡萄は、ドメーヌ・アツシスズキのツヴァイゲルト。1922年、オーストリアのツヴァイゲルト博士によって、サンローランとブラウフレンキッシュを交配し、開発された品種だ。50年足らずの内に、オーストリアだけでなく、北海道でも上質で深みのある葡萄が栽培されている。
ジョージアから輸入されたクヴェヴリの中で野生酵母により醗酵されたツヴァイゲルトは、一定の温度を保ちながらゆっくりと穏やかにワインに昇華した。
本格的なワイン造りが始まったばかりの日本で、若い栽培家によって育てられたツヴァイゲルト、そして、ワイン発祥の地ジョージアで、紀元前から人々が伝えてきたクヴェヴリによる醸造。
口に含むと、ブルーベリーやブラックチェリーのような果実味、朝咲きのスミレのような清涼、クローブや生姜、カルダモンなどのスパイス感の中に、上質なカカオの香りが通り抜けていく。
柔らかい口当たりに包まれていると、しっとりと細かいタンニンが広がり、溶け込んだ酸と一緒に長い余韻に身体中が満たされる。近年好まれがちな、単に喉越しだけがいいワインとは別の天体にある、新しい導きの星。
幸運にもどこかのレストランで出会うことがあったら、過去と現代、西と東のすべての叡智が閉じ込められた一杯に、いつまでも身を委ねて欲しい。
10Rワイナリー クヴェヴリ製ツヴァイゲルト2017
「キュヴェ・ステラマリス」